11月3日(木)『校長だより』第26号

「たび 旅 多比」

人が旅に出る目的な何でしょう。「楽しければよい」?でもそれだけでしょうか。4日間の旅を終え、自宅に帰った時の印象はいかがでしたか、ちょっと雰囲気が変わったことを感じませんでしたか。普通に考えれば何も変わっていないはず。しかし、どこか新鮮さを感じた方もいたことでしょう。旅行前に万葉集の話を紹介しました。「旅」は「多比」と表記されていると。万葉仮名ですから漢字の音をそのまま使っているのですが、何となく旅の意味を感じさせる表記だと思いませんか。日々、我々は日常に埋没しています。同じことの繰り返し、でも旅に出ると新鮮な目で様々なことを見て、聞いて、感じて比べ、日々の生活に戻ったのに以前に比べて新しさを感じるのかもしれません。日常は変わらないけれど、我々自身の見方が変わったからに他ならないのでしょう。

さて、私も久しぶりに修学旅行に同行しました。折々の感想を紹介しましょう。

【待ちに待った修学旅行 さぁ出発】
早朝から羽田空港は修学旅行生で混雑していました。コロナが少し減少したからか、多くの学校が修学旅行を再開したようでした。しかし、十分な感染対策を踏まえた旅行になることは仕方ありません。横川先生からも「普通の修学旅行ではない。申し訳ないけど、様々な制限下で行動を自粛してほしい」と出発前から話がありました。

【平和学習】
初日、沖縄戦の語り部さんの体験談は実に生々しい内容でした。米軍の沖縄本島上陸に際し、島北部の山中に逃げ込んだと言う様子が語られました。子供心に生死をかけた逃避行は、恐怖以外の何ものでもなかったことでしょう。しかし、当時6歳で現在89歳と言う年齢を考えれば、実際の戦争がいかに悲惨であったかを語れる人はとても少なくなっているということも認識せざるをえません。

2日目は、戦争の悲惨さを学ぶために沖縄平和祈念資料館や旧海軍司令部壕などを訪れました。あまりにもショッキングな映像等を見て、その場で絶句し涙する姿がありました。資料館の展示ブースの結びの言葉に以下のメッセージが残されていました。 「沖縄戦の実相にふれるたびに戦争と言うものは、これほど残忍でこれほど汚辱にまみれたものはない。この生々しい体験の前では、いかなる人でも戦争を肯定し美化する事はできないはず。戦争を起こすのは確かに人間です。しかし、戦争を許さない努力が出来るのも私たち人間ではないでしょうか」と。改めて我々戦争を知らない世代がいかにそれを後世に伝えていくかということが求められるということを痛感しました。

歴史の教員として、歴史を学ぶ意味は「未来を生きるために過去を学ぶのだと」ということを伝えてきました。でも、人間は何度も同じ過ちを繰り返すのです。宿泊先のホテルで地元新聞に目をやると、沖縄(石垣島)の珊瑚礁が死滅とのニュースが紹介されていました。地球温暖化による海水温度の上昇、つまり環境破壊が深刻化しているようです。人間がもたらす様々な被害は我々一人一人が意識することが大切とのメッセージに他なりません。戦争同様、考えさせられました。

【歴史】
首里城では3年前の火災から一部区域を除き、公開がされています。復興が進み2026年には再び首里城正殿が復元されるそうです。一緒に首里城を見学した神戸先生から、3年前の本校の修学旅行は、まさに火災当日に沖縄に滞在していたとのこと。翌日、急遽コース変更を余儀なくされたという苦労話を聞きました。

バスガイドさんから首里城が焼け落ちたことで世界文化遺産の登録が抹消されるのではないかとの不安を沖縄県民も持ったそうです。しかし、首里城が世界遺産とされているのは、建物の基礎となる部分(基壇)の遺構が15世紀以降、首里城正殿が度々建て替えられていたことを証明し、過去から現代に引き継がれてきたかけがえのない宝物として評価されているからだそうです。焼失前もアクリル板越しに地下部分の基壇が見学できるようになっており、再建後も再び見られるようにするそうです。よく考えれば、守礼の門や首里城も戦争で空襲に合い、戦後に再建されているのだから、建築物が文化遺産ということはないですね。

【体験】
旅行3日目は、①伊江島サイクリング&今帰仁城コース、②カヌー&トレッキングコース、そして③マリンスポーツ&(クラフト・釣り・シーサー作り)分かれて体験学習を行いました。  

伊江島コースはフェリーに搭乗するため、朝早くホテルを出発、島内のサイクリングがメニューです。カヌーコースはマングローブの中を進むワイルド体験のようです。ザンパビーチでのマリンコースは、水着に着替えての体験です。それぞれ沖縄の自然を充分満喫する体験になったことと思います。

気温は28度で日差しが強く、マリンコースでは、シーカヤック、シュノーケリング、ドラゴンボートなど、ライフジャケットを身に付けてコバルトブルーの海を堪能、大きな歓声が聞こえてきました。 私はグラスボートに乗って、海底のサンゴと熱帯魚の鑑賞。イソギンチャクを住処にするニモの姿を見つけました。午後に乗船した小門先生は、ウミガメを見られたと大喜びで映像を見せてくれました。

午後は、作品制作等のコースを巡回。シーサーの制作は、一人ひとり違った個性的な表情のシーサーを作成していました。12月頃に乾燥させた置物が手元に届くそうです。楽しみですね。シーキャンドルの制作も凝った作品ばかりでした。釣りは、エビで鯛を釣るというわけにはいかなかったようですが、太公望の気分を味わったようです。

【市内等 見学】
最終日は、班ごとに分かれてタクシー移動で沖縄市内等の見学。座喜味城などの史跡や観光名所を訪れたようです。私は先生方と国際通りの市場で“ソーキそば”をいただきました。

【節度ある行動】
旅行中は時間を守ろうとする姿勢が見られました。遅れそうになると小走りで間に合うよう努めていました。地域振興クーポンが急遽配られたために、美ら海水族館では、お土産ショップのレジが大混雑し、ちょっと遅れてしまったのは残念でしたが… 。

食事の際には黙食、部屋での会話もよく我慢していたと思います。私が高校生の時の修学旅行と比べれば雲泥の差です。思い返せば夜中に廊下で正座した記憶があります。あまりほめられた話ではありませんね。コロナの規制の下、多くの人が我慢をして行動していたように思います。拍手。

3年ぶりに実施された修学旅行でしたが、この4日間は皆さんにとって高校時代の素晴らしい最高の思い出となったことでしょう。